世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。
感染者数は1000万人、死者数は50万人に上る。
「緊急事態宣言」「外出自粛」「買い占め騒動」など、私たちの生活は一変した。
そんなコロナ禍で最も影響を受けている業種の一つが飲食店だ。
閉店に追い込まれるケースも相次いでいる。
この災難をどう乗り越えていけばいいのか。私たちにできることとは?
大阪・梅田で居酒屋「創菜酒房おん」を営む小倉さん夫婦に話を聞いた。
「国内で初めて新型コロナウイルス患者を確認」
2020年1月、そんなニュースが全国を駆け巡った。
お店を構える大阪でも感染が確認されたとき、「ただの風邪くらいにしか思わっていなかった」と小倉さんは言う。
「創菜酒房おん」は、2019年12月に20周年を迎えたばかり。新型コロナウイルス(以下、コロナ)をものともせず、お店を切り盛りしていた。
雲行きが怪しくなったのは2月末。
以前は週に1〜2回ほど入っていた貸切予約のキャンセルが相次いだ。
営業を続けるため、感染拡大防止策を徹底する。スタッフはマスクを着用し、常に換気できるよう、ドアに網戸カーテンを取り付けて開けっ放しに。入口にはお客様用のアルコール消毒液を設置し、ディナータイムの座席は向かい合わせ・隣り合わせにならないよう斜向かい(はすむかい)にセッティングした。テーブルやイスなどのこまめな消毒を行い、空間除菌できるタイプの加湿器も導入。
「マスクは常連様が箱ごとくれたおかげで、なんとか切らさずに済んだ。営業するということは、お客様が使った食器を洗うことになる。もちろん感染リスクは覚悟の上。それでも、飲食店は開けておくのが鉄則」という信念のもと営業を続けた。
3月になると、生活面でも変化が訪れた。全国の小中高校が臨時休校となり、娘さんの通う高校は「自宅待機」を言い渡された。
3月末には、国内で1日あたりの感染者が初めて100人を超え、「インフルエンザのように暖かくなると収束する」という希望的観測はむなしくも外れる。
企業では次々とテレワークが導入され、ランチはもちろん、ディナー営業への影響もさらに大きくなる。
「お昼のお客様は3〜4割減。夜は予約が全部キャンセルになった。歓送迎会シーズンの3〜4月は予約がゼロに。宴会を禁止する会社も多く、どうしようもなかった。特に、夜のお客様はもう本当に数えるくらい。お店を心配して来てくださる常連様がいたが、夜はその方だけという日が何日もあった」。
4月7日。ついに「緊急事態宣言」が発出。不要不急の外出自粛が要請され、飲食店は営業時間を20時、酒類の提供を19時までに制限された。
緊急事態宣言後、初めての週末。梅田の人出は1〜2月の感染拡大前と比べて86.9%減で、全国トップの減少率となる。
「梅田の地下街も全部閉まっていて、駅のホームを見渡しても誰もいない。御堂筋線はいつも座れないくらい混んでいるけど、電車の中はガラガラ。人がいなくて怖かった」と奥さん。
浪速の台所・天満市場からもにぎわいが消える。
「いつもは駐車場で順番待ちをするくらい混んでいる天満市場も、今までの半分くらいしか人がいなかった。『本当にやばいな……この先どうなるんだろう』と徐々に恐怖心が出てきた」。
そこで、同店ではコロナ対策として、さまざまな取り組みを始める。
まずは、テイクアウトメニューをスタート。「熱々を食べてほしいので、注文が入ってから作る」というこだわりぶりだ。リモート飲み会用として「おつまみセット」も用意した。
また、自治体からの支援も活用。
休業要請の対象ではなかったものの、営業時間が短縮されたため「休業要請支援金」を申請した。
営業を続けていると、親切なお客様から、食事チケットを先払いで購入することでお店を応援するプロジェクト「さきめし」を紹介された。登録すると、たちまち宣伝効果につながった。
疫病除けの妖怪とされる“アマビエ”にちなんだ日本酒「AMABIE19」も入荷。
「Facebookに写真をアップして『お店は潰れてないよ』というメッセージを送った」と笑う二人。
そんな中、当初1カ月の予定だった「緊急事態宣言」は5月末まで延長された。先行きが見えない中で、大阪では外出自粛や休業などの要請を段階的に解除するための独自基準「大阪モデル」を発表。5月16日からは飲食店の営業時間が22時まで、酒類の提供が21時までと、それぞれ2時間延長された。
「出口戦略としての大阪モデルがあって、本当に良かった」と振り返る。
そして、5月21日、大阪の緊急事態宣言が解除された。1カ月以上が経った今は、通常営業を再開している。客足はどうなっているのだろうか。
「テレワークが終了したことで、お昼は9割ほど戻ってきた。でも、夜は半分くらい。貸切予約は12名以上から受け付けていたが、少人数で広々と使ってもらえるように8名以上に変更した。でも、なかなか入らない。入っても、やっぱりキャンセルという電話が鳴る。なかなか厳しい状況。ふらっと飲みに来られるお客様も少ないので、『今日はお客様が来てくれるかな、どうかな』という毎日」。
明るい口調の二人だが、まだまだ不安な日々が続いている。「ウィズコロナ」「アフターコロナ」という言葉が浸透しつつある現在。これから先を見据えた思いを聞いた。
「しばらく貸切予約は難しいと思う。シフトチェンジしなければ。今は、料理をシェアせずに済むよう、低価格の一人一皿メニューを充実させている。忘年会が一番のかき入れ時だが、どうなるかわからない。ワクチンの開発と1日も早い終息を願う。再び貸切予約が埋まるよう、21周年に向けて頑張りたい」。
【創菜酒房おんを応援する】
(インタビュー・文:ほりゅちゅこ)
編集後記
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
「創菜酒房おん」は、私が学生時代にアルバイトとしてお世話になったお店です。
今回、Zoomを使ったオンライン・インタビューでお話を聞きました。
コロナによってこれまでに経験したことのない事態に見舞われましたが、気丈にも前を向いて困難に立ち向かっている方がいます。
私たちにできることは何かあるはずです。
少しでも「役に立ちたい」と思われた方は、この記事をSNS等でシェアいただけたらうれしいです。
よろしくお願いします。
※記事の内容は、2020年6月28日に取材した時点での情報です。
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